個人事業主の倒産防止共済と節税ポイント

個人事業主の皆さまにとって、所得税や住民税のほかに、毎年必ず課される個人事業税も負担になります。
iDeCoや小規模企業共済は所得税や住民税の節税に有効ですが、個人事業税には影響しません。
そこで注目されるのが、倒産防止共済(経営セーフティ共済)です。今回は、制度の仕組みと節税効果、実務上の注意点を整理してみました。


1. 倒産防止共済とは?

倒産防止共済は、中小企業や個人事業主向けの共済制度で、以下の特徴があります。

  • 掛金は毎月1万円から20万円まで設定可能
  • 掛金は全額必要経費として算入できるため、所得税・住民税・個人事業税の課税所得を減らすことができる
  • 解約時には掛金の元本が返戻される(運用益は付かない)
  • 掛金の10倍までの低利借入が可能で、資金繰りの保険的機能もある

2. 前納による節税効果のシミュレーション

ここでは仮定条件として、年間60万円を前納した場合の節税効果を試算します。

  • 前提条件
    • 掛金:60万円
    • 所得税率:10%・20%(複数パターン)
    • 住民税率:10%
    • 個人事業税率:5%

所得税10%の場合

  • 所得税:60万円 × 10% = 6万円
  • 住民税:60万円 × 10% = 6万円
  • 個人事業税:60万円 × 5% = 3万円
    合計節税額:15万円

所得税20%の場合

  • 所得税:60万円 × 20% = 12万円
  • 住民税:60万円 × 10% = 6万円
  • 個人事業税:60万円 × 5% = 3万円
    合計節税額:21万円

※あくまで仮定条件でのシミュレーションです。実際の税額は所得や控除、税率により異なります。


3. 出口戦略と注意点

倒産防止共済は掛金を経費として計上することで課税を繰り延べる仕組みです。
解約時には、解約手当金が事業所得として算入されますので、最終的な節税は「課税の先送り」にとどまります。

  • 長期保有のメリット
    収益性や流動性はないものの、赤字年や廃業時に解約すれば、節税効果を最大化できる
  • 流動性の制約
    掛金は原則として40か月以上継続しないと元本が全額戻らないため、資金は長期間拘束される

4. 実務上の考え方

  • 即効的に税金を減らしたい場合は、前納による節税が有効
  • 一方で、資金を運用して増やすことや流動性を重視する場合は、前納よりも通常掛金または投資に回す選択肢もある
  • 個人事業税まで含めた節税策としての位置づけを明確に理解することが重要

5. まとめ

倒産防止共済は、個人事業税まで節税できる数少ない制度ですが、長期的には「課税繰延」であること、運用益は付かないことを理解したうえで利用する必要があります。

  • すぐに税金を減らしたい場合 → 前納による即効節税
  • 流動性・資産形成を重視する場合 → 最低限の掛金にとどめ、残りは運用へ

個々の事業状況やライフプランに応じて、掛金の前納・通常支払・運用のバランスを検討することが望ましいでしょう。


💡 法人の場合の補足
法人が倒産防止共済に加入する場合も、解約時には解約手当金が収益として計上されますが、役員退職金などの費用と相殺することで課税所得の調整が可能です。そのため、法人の場合は個人事業主のような課税繰延のデメリットを抑えつつ、節税や資金繰り対策として有効に活用できるため、加入はおすすめです。

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