最近、「インフレ税」という言葉を目にする機会が増えました。
法律上の税金ではありませんが、実務の現場にいると、この言葉が示す感覚に強くうなずかされる場面が多くなっています。
特に個人事業主の方から、
- 売上はそれほど変わっていない
- むしろ名目上は増えている場合もある
- それにもかかわらず、なぜか手元が苦しい
という声を耳にすることが増えました。
本記事では、
インフレ税とは何か、
なぜ個人事業主ほど影響を受けやすいのか、
そして 最近の税制改正の動きと今後の見通しについて整理します。
インフレ税とは何か(法律用語ではありません)
インフレ税とは、
物価上昇(インフレ)によって、実質的な購買力が低下することを、
「税金になぞらえて」表現した言葉です。
例えば、
- 預金残高は変わっていない
- 収入も名目上は同じ、あるいは増えている
にもかかわらず、
- 食料品
- 光熱費
- 家賃
- 各種サービス料金
が上昇することで、生活や事業に使える実質的な価値は減少します。
このような「静かに進む負担増」を、インフレ税と呼びます。
個人事業主がインフレ税を強く実感しやすい理由
① コストはすぐに上がるが、売上単価は簡単に上げられない
多くの個人事業主に共通する構造として、
- 仕入
- 外注費
- 家賃
- 光熱費
といった事業コストは比較的早く上昇する一方で、
- 売上単価の値上げ
- 報酬改定
は、取引先や顧客との関係上、簡単には行えないケースが少なくありません。
その結果、
売上はほぼ変わらない
しかしコストだけが上昇し
利益率が低下する
という状態に陥りやすくなります。
② インフレと累進課税が同時に効く構造
インフレ下では、事業者によって置かれる状況が分かれます。
価格転嫁が難しい場合には、
- 売上は横ばい
- 事業コストが上昇
- 利益率が低下
という形で、実質的な負担が増加します。
一方で、物価上昇に対応するため、
- やむを得ず売上単価や報酬を引き上げ
- 名目上の売上や所得が増加する
ケースもあります。
しかし、この場合でも、
- 生活費や事業コストの上昇により
- 実質的な余裕はほとんど変わらない
にもかかわらず、課税所得の増加により、より高い税率が適用される可能性があります。
この結果、
インフレによる実質的な負担増
+
所得税の累進課税による税負担増
という、二重の圧迫が生じます。
これが、
「頑張っているのに、なぜか楽にならない」
と感じる大きな要因です。
税制改正大綱に見える問題意識
先日公表された令和8年度税制改正大綱の「検討事項」には、
小規模企業等に係る税制のあり方について、
個人事業主の勤労性所得に対する課税のあり方にも配慮しつつ、
人的控除を含め、総合的に検討する
といった趣旨の記載があります。
これは、
- 個人事業主の所得が
単なる事業リスクの対価ではなく - 勤労によって得られる所得という側面
についても、制度上再評価する必要がある、
という問題意識が示されたものと考えられます。
もっとも、現時点ではあくまで「検討事項」であり、
直ちに税負担が軽減される制度改正が行われると断定できる状況ではありません。
個人事業主が今、意識しておくべきこと
インフレと税制の構造がすぐに変わらない以上、
現実的には、次のような点を意識する必要があります。
- 名目売上ではなく「実質的な手取り」で状況を把握する
- 利益率の低下を放置しない
- 税引後キャッシュフローを基準に判断する
- 値上げや報酬改定を「悪いこと」と捉えすぎない
インフレ下では、
「何もしないこと」自体がリスクになる局面に入っています。
おわりに
インフレ税は、
目に見える形で請求書が届くものではありません。
しかし、
気づかないうちに、
毎年少しずつ、
確実に負担を増やしていきます。
制度を正しく理解したうえで、
ご自身の事業にどのような影響が生じているのかを把握し、
早めに対策を検討することが重要です。