令和8年度税制改正大綱ー中小企業(法人)に関係する主な改正点の整理ー

令和8年度税制改正大綱では、
インボイス制度導入後の実務負担や物価上昇、人手不足といった現状を踏まえ、
中小企業の経営環境に配慮した見直しが複数盛り込まれています。

本稿では、その中でも 中小企業(法人)に特に関係が深い改正項目について、
改正内容だけでなく、その背景や適用時期も含めて整理します。


① 免税事業者からの課税仕入れに係る税額控除に関する経過措置の見直し

改正の概要

インボイス制度の導入に伴い設けられている、
免税事業者からの課税仕入れに係る税額控除の経過措置について、
最終的な適用期限を延長したうえで、控除割合を段階的に縮減していくこととされました。

背景

インボイス制度の影響を受けるのは、課税事業者だけでなく、
取引先に免税事業者を多く抱える中小企業や、
免税事業者自身を含む小規模な国内事業者です。

こうした事業者への配慮として、
更なる激変緩和措置を図る観点から
経過措置の見直しが行われています。

適用スケジュール

免税事業者からの課税仕入れに係る税額控除については、

  • 令和8年10月から:控除割合 7割
  • 令和10年10月から:控除割合 5割
  • 令和12年10月から:控除割合 3割

と段階的に縮減され、
令和13年9月30日をもって適用が終了する予定です。

今後、取引形態の見直しや価格交渉への影響も想定されるため、
中長期的な視点での対応が求められます。


② 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例の見直し

改正の概要

中小企業者等が適用できる
少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例について、

  • 取得価額基準を
    現行の「30万円未満」から「40万円未満」へ引き上げ

る見直しが行われます。

適用対象の留意点

この特例の適用対象となる中小企業者等のうち、
常時使用する従業員数が400人を超える法人は対象外となります。

資本金要件だけでなく、
従業員数要件にも改めて注意が必要です。

背景

設備価格の上昇により、
30万円という基準では実態に合わないケースが増えていることを踏まえ、
中小企業の設備投資を後押しする観点から見直しが行われました。

適用開始時期

  • 令和8年4月1日以後に取得する資産から適用

③ 賃上げ促進税制(給与等の支給額が増加した場合の税額控除)

改正の概要

賃上げ促進税制については、
中小企業向け措置を中心に制度が整理されます。

あわせて、これまで設けられていた
教育訓練費を増加させた場合の税額控除の上乗せ措置については、全区分で廃止されます。

背景

教育訓練費の上乗せ措置については、

  • 教育訓練費の増加額よりも
  • 税額控除額の方が大きくなるケースがある

ことが、会計検査院から指摘されていました。

こうした指摘を踏まえ、
制度の実効性と公平性の観点から、
上乗せ措置が廃止されることとなっています。

賃上げそのものを評価する制度設計へ、
よりシンプルに整理された形といえるでしょう。


④ 食事を支給したときの非課税限度額の引き上げ

改正の概要

役員・従業員に対して食事を支給した場合の
所得税の非課税限度額が、月額7,500円に引き上げられます。

背景と実務への影響

物価高騰、とりわけ食料品価格の上昇を踏まえ、
現行の非課税限度額では実態に合わなくなっていることが見直しの背景です。

社員食堂を運営している企業や、
食事手当を支給している企業にとっては、
福利厚生の充実につながる改正といえます。

賃上げが難しい局面においても、
実質的な従業員支援策として活用が検討されるでしょう。

適用開始時期

  • 令和8年分以後の所得税から適用

⑤ 償却資産税の免税点の引き上げ

改正の概要

固定資産税(償却資産)について、

  • 家屋:免税点
    30万円 → 50万円
  • 償却資産:免税点
    150万円 → 180万円

へと引き上げられます。

背景

設備価格の上昇や、小規模事業者の設備保有実態を踏まえ、
税負担の軽減を図る目的での見直しです。

少額の設備を保有する事業者にとっては、
申告・納税負担の軽減につながる改正となります。

適用開始時期

  • 令和9年度分の固定資産税から適用

おわりに

令和8年度税制改正では、
インボイス制度導入後の負担緩和、
物価上昇への対応、
中小企業の賃上げや投資を後押しする施策が随所に盛り込まれています。

制度改正の背景を理解したうえで、
自社に影響のある改正を的確に把握し、実務に反映させることが重要です。

今後も、
中小企業の実務に直結する税制改正について、
順次解説していく予定です。

インフレ税とは何か― 個人事業主が「売上は同じなのに苦しい」と感じる理由 ―

最近、「インフレ税」という言葉を目にする機会が増えました。
法律上の税金ではありませんが、実務の現場にいると、この言葉が示す感覚に強くうなずかされる場面が多くなっています。

特に個人事業主の方から、

  • 売上はそれほど変わっていない
  • むしろ名目上は増えている場合もある
  • それにもかかわらず、なぜか手元が苦しい

という声を耳にすることが増えました。

本記事では、
インフレ税とは何か
なぜ個人事業主ほど影響を受けやすいのか
そして 最近の税制改正の動きと今後の見通しについて整理します。


インフレ税とは何か(法律用語ではありません)

インフレ税とは、
物価上昇(インフレ)によって、実質的な購買力が低下することを、
「税金になぞらえて」表現した言葉です。

例えば、

  • 預金残高は変わっていない
  • 収入も名目上は同じ、あるいは増えている

にもかかわらず、

  • 食料品
  • 光熱費
  • 家賃
  • 各種サービス料金

が上昇することで、生活や事業に使える実質的な価値は減少します。
このような「静かに進む負担増」を、インフレ税と呼びます。


個人事業主がインフレ税を強く実感しやすい理由

① コストはすぐに上がるが、売上単価は簡単に上げられない

多くの個人事業主に共通する構造として、

  • 仕入
  • 外注費
  • 家賃
  • 光熱費

といった事業コストは比較的早く上昇する一方で、

  • 売上単価の値上げ
  • 報酬改定

は、取引先や顧客との関係上、簡単には行えないケースが少なくありません。

その結果、

売上はほぼ変わらない
しかしコストだけが上昇し
利益率が低下する

という状態に陥りやすくなります。


② インフレと累進課税が同時に効く構造

インフレ下では、事業者によって置かれる状況が分かれます。

価格転嫁が難しい場合には、

  • 売上は横ばい
  • 事業コストが上昇
  • 利益率が低下

という形で、実質的な負担が増加します。

一方で、物価上昇に対応するため、

  • やむを得ず売上単価や報酬を引き上げ
  • 名目上の売上や所得が増加する

ケースもあります。

しかし、この場合でも、

  • 生活費や事業コストの上昇により
  • 実質的な余裕はほとんど変わらない

にもかかわらず、課税所得の増加により、より高い税率が適用される可能性があります。

この結果、

インフレによる実質的な負担増

所得税の累進課税による税負担増

という、二重の圧迫が生じます。

これが、
「頑張っているのに、なぜか楽にならない」
と感じる大きな要因です。


税制改正大綱に見える問題意識

先日公表された令和8年度税制改正大綱の「検討事項」には、

小規模企業等に係る税制のあり方について、
個人事業主の勤労性所得に対する課税のあり方にも配慮しつつ、
人的控除を含め、総合的に検討する

といった趣旨の記載があります。

これは、

  • 個人事業主の所得が
    単なる事業リスクの対価ではなく
  • 勤労によって得られる所得という側面

についても、制度上再評価する必要がある、
という問題意識が示されたものと考えられます。

もっとも、現時点ではあくまで「検討事項」であり、
直ちに税負担が軽減される制度改正が行われると断定できる状況ではありません。


個人事業主が今、意識しておくべきこと

インフレと税制の構造がすぐに変わらない以上、
現実的には、次のような点を意識する必要があります。

  • 名目売上ではなく「実質的な手取り」で状況を把握する
  • 利益率の低下を放置しない
  • 税引後キャッシュフローを基準に判断する
  • 値上げや報酬改定を「悪いこと」と捉えすぎない

インフレ下では、
「何もしないこと」自体がリスクになる局面に入っています。


おわりに

インフレ税は、
目に見える形で請求書が届くものではありません。

しかし、
気づかないうちに、
毎年少しずつ、
確実に負担を増やしていきます。

制度を正しく理解したうえで、
ご自身の事業にどのような影響が生じているのかを把握し、
早めに対策を検討することが重要です。

令和8年度税制改正でNISAはどう変わる?子ども向け資産形成を見据えた拡充内容を解説

先日、令和8年度税制改正大綱が発表されました。
子育て世代として個人的に特に注目しているのが、NISAの拡充です。

NISA(少額投資非課税制度)は、
投資によって得られた利益に税金がかからない制度として、
これまでも国民の資産形成を後押ししてきました。

今回の税制改正では、
従来の「大人の資産形成」を主眼とした制度から一歩進み、
子どもの将来を見据えた長期的な資産形成までを、制度として明確に位置づけた点が、大きな特徴だと感じています。

本記事では、
改正前と改正後を比較しながら、NISA制度がどのように変わるのかを、
できるだけ分かりやすく整理します。


NISAとはどのような制度か

NISAとは、通常であれば約20%の税金がかかる

  • 株式や投資信託の値上がり益
  • 配当金や分配金

といった投資による利益が非課税となる制度です。

長期・積立・分散投資を促すことで、
国民一人ひとりが将来に備えた資産形成を行えるよう設計されています。


【改正前】これまでのNISAと子ども向け制度の位置づけ

令和7年度までのNISA制度は、

  • 対象年齢は原則18歳以上
  • 主に老後資金など、大人自身の将来に向けた資産形成を想定

という構成でした。

一方で、子ども向けの制度としては、
2016年に「ジュニアNISA」が創設されましたが、
2023年をもって制度として廃止されています。

その結果、
改正前のNISA制度全体としては、
子どもの将来資金を目的とした恒久的な仕組みが存在しない状態となっていました。


【改正後】令和8年度税制改正によるNISAの主な変更点

① つみたて投資枠の対象年齢を0歳まで拡充

今回の改正により、
2027年(令和9年)から、つみたて投資枠の対象年齢が0歳まで引き下げられます。

これにより、

  • 0歳からNISA口座を開設し
  • 親が管理する形で
  • 長期間にわたり積立投資を行う

ことが可能となります。

ジュニアNISA廃止後に空白となっていた「子どものための資産形成制度」が、
新たな形で制度化されたといえます。

なお、いわゆる「こどもNISA」については、以下のような上限が設けられます。

  • 年間投資枠:60万円
  • 非課税保有限度額:600万円

これは、
資産の過度な集中や格差の固定化を防ぐ観点からの措置と考えられます。

また、積み立てた資産は、
子どもが12歳以上になり、本人の同意を得なければ引き出すことができない
という制限も設けられます。

従来のジュニアNISAでは、
原則として子どもが18歳になるまで払い出しができず、
使い勝手の面で課題が指摘されていましたが、
今回の改正では、年齢に応じて柔軟性を持たせた制度設計となっています。


② 投資対象の拡充(国内投資の後押し)

改正後は、

  • 国内株式を対象とした一定の株価指数
  • 地域を限定した株式指数
  • 債券の比率が高い投資信託

などが、つみたて投資枠の対象として追加されます。

個人の資産形成を支援すると同時に、
国内経済への資金循環を促す政策的な意図も読み取れます。


改正前後の比較まとめ

項目改正前改正後
対象年齢原則18歳以上0歳以上
子ども向け制度ジュニアNISA(2023年廃止)「こどもNISA」として恒久的に位置づけ
想定される目的大人の資産形成中心子どもの将来資金も想定
投資対象一定の制限あり国内投資・債券等が拡充

子育て世代の立場から感じること

今回のNISA拡充は、

  • 「教育資金は貯金で準備するもの」
  • 「投資は大人になってから考えるもの」

といった従来の考え方から、
時間を活かした長期的な資産形成へと発想を広げる改正だと感じます。

もちろん、
投資には価格変動リスクがあり、
すべての家庭にとって必須の制度ではありません。

しかし、
制度を正しく理解した上で
「使う・使わない」を選択できる環境が整ったこと自体に、
大きな意義があると考えています。


おわりに

税制改正は専門的で分かりにくい印象を持たれがちですが、
NISAのように日常生活や子育て、将来設計に直結する改正も少なくありません。

今後も、
子育て世代・生活者の視点から、
税制改正のポイントを分かりやすく整理していきたいと思います。

個人事業者が陥りやすい「消費税の誤り」②

― 課税・非課税の判断ミスに要注意 ―

前回は、消費税の納税義務の判定や届出に関する誤りを取り上げました。
第2回となる今回は、実務上とくに誤りの多い、

「その取引は、課税か、非課税か」

という論点について解説します。

消費税は、所得税とは異なり、
取引の性質そのものによって課税・非課税が決まります。
この点の誤解が、申告誤りにつながりやすい分野です。


1.消費税が課税される取引の基本構造

消費税の課税対象となる取引は、次の 4要件すべてを満たす必要があります。

  1. 国内において行われる取引であること
  2. 事業者が事業として行う取引であること
  3. 対価を得て行う取引であること
  4. 資産の譲渡、貸付け、または役務の提供であること

この要件を満たしていても、法律上、非課税取引とされているものもあります。


2.【誤りやすい事例①】「雑所得=消費税は関係ない」という誤解

所得税で「雑所得」に該当する収入は、
消費税の課税対象にはならないと考えているケース

これは、典型的な誤りです。

消費税では、
👉 反復・継続・独立して対価を得ているか
という「事業性」が重視されます。

そのため、
所得税上は雑所得であっても、消費税では課税売上となるケースは少なくありません。


3.【誤りやすい事例②】事業用資産の売却を課税売上に含めていない

次のようなケースも少なくありません。

  • 事業で使用していた車両の売却・下取り
  • 事業用の機械・備品の処分

これらについて、

「売上ではないから、消費税は関係ない」

と考えてしまうケースです。

しかし、
事業に付随して行われる資産の売却は、
👉 課税資産の譲渡
👉 課税売上に含まれる

とされます。


4.【誤りやすい事例③】居住用アパートの「賃貸」と「売却」の混同

不動産関係は、消費税の誤りが非常に多い分野です。

  • 居住用アパートの賃貸料 → 非課税
  • 居住用アパートの売却課税

「賃貸が非課税だから、売却も非課税」という判断は誤りです。


5.【誤りやすい事例④】自宅兼アパートを売却した場合の区分漏れ

自宅と賃貸部分が一体となった建物を売却した場合、

  • 事業用(賃貸)部分 → 課税
  • 居住用(自宅)部分 → 不課税

と、合理的な基準で区分する必要があります。

建物全体を非課税として処理してしまう誤りが多いので注意が必要です。


6.【誤りやすい事例⑤】敷金から差し引いた原状回復費を非課税としている

借主退去時に、敷金から差し引いた原状回復費について、

「非課税」

と処理しているケースがあります。

しかし、
貸主が借主に代わって行う原状回復工事は、
👉 役務の提供
👉 課税対象

となります。


7.【誤りやすい事例⑥】建物を譲渡した際、固定資産税の未経過分を課税売上に含めていない

建物を売却した際に、売買代金とは別に、

  • 固定資産税
  • 都市計画税

未経過分(精算金) を、買主から受領するケースがあります。

このとき、

「固定資産税は税金なので消費税は関係ない」
「売買代金とは別なので課税売上ではない」

として、消費税の課税売上に含めていない事例も少なくありません。

正しい考え方

建物の譲渡に伴い、
当該建物に係る固定資産税等について未経過分があり、
その金額を買主から受領している場合、

👉 その金額は
👉 建物の譲渡の対価の一部
👉 課税売上に含める必要があります

名目が「固定資産税精算金」であっても、
消費税上は 建物譲渡の対価として扱われる点に注意が必要です。


まとめ|課税・非課税は「実態」で判断する

消費税の課税・非課税は、

  • 所得区分
  • 契約書の表現
  • 金銭の名目

ではなく、

取引の実態と対価性

によって判断されます。

不動産や事業用資産が関係する取引については、思い込みで処理せず、事前確認をおすすめします。

個人事業者が陥りやすい「消費税の誤り」①

― 納税義務の判定・届出関係の落とし穴 ―

個人事業者の消費税申告においては、
「そもそも課税事業者に該当するかどうか」の判定段階で誤りが生じているケースが少なくありません。

今回は、納税義務の判定や各種届出に関する”誤りやすいポイント”を中心に解説します。


1.納税義務者に該当するかの基本整理

次のいずれかに該当する場合、消費税の確定申告が必要となります。

  • 適格請求書発行事業者(インボイス登録事業者)である
  • 基準期間(原則2年前)の課税売上高が1,000万円を超える
  • 特定期間(前年1~6月)の課税売上高と給与等支払額がいずれも1,000万円を超える
  • 消費税課税事業者選択届出書を提出している
  • 相続があった場合の納税義務の免除の特例に該当する

この「どれか1つに該当すれば課税事業者になる」という点が、まず重要です。


2.【誤りやすい事例①】免税事業者の売上を「税抜」で判定してしまう

免税事業者だった年の売上を、
「110分の100(または108分の100)」で割り戻して課税売上高を計算しているケース

これは誤りです。

免税事業者の売上には、そもそも消費税が含まれていません。
そのため、受け取った金額の全額が課税売上高となります。

✔ 「税込・税抜」の考え方は、課税事業者になってからの話
✔ 納税義務判定では「受け取った金額そのもの」で判定


3.【誤りやすい事例②】事業用資産の売却を課税売上高に含めていない

基準期間の課税売上高を計算する際に、

  • 事業用の建物
  • 機械・設備
  • 事業用車両

などの売却代金を除外しているケースが散見されます。

これらはすべて
👉 「課税資産の譲渡」
👉 課税売上高に含める必要があります

一時的な売却であっても、判定には影響しますので注意が必要です。


4.【誤りやすい事例③】課税事業者選択届の効力を誤解している

よくある誤解

  • 「一度売上が1,000万円を超えたら、選択届の効力はなくなる」

これは誤りです。

✔ 課税事業者選択届は
👉 「不適用届出書」を提出しない限り効力は存続します


5.相続があった場合の注意点

被相続人が提出していた
「消費税課税事業者選択届出書」の効力は、相続人には及びません

相続により事業を承継した場合には、

  • 相続があった場合の納税義務の判定
  • 必要に応じて届出書の提出

が必要となります。

監修記事が「GMO不動産査定」に掲載されました

当事務所代表・税理士 松浦が監修した記事が「GMO不動産査定」掲載されました。

今回監修を行った記事では、更地の固定資産税が高くなる理由や、税負担を軽減するための具体的な方法について、分かりやすく解説しています。

ぜひ以下のリンクよりご覧ください。
👉 更地の固定資産税が高い理由と安く抑える4つの方法(GMO不動産査定/2025年10月公開)

一人税理士法人の設立要件緩和とインボイス制度についての私見

このたび、税理士会より制度部および調査研究部での審議の参考にするためのアンケートのご依頼をいただきました。
私個人として、次の2つのテーマについて意見を回答させていただきました。

1️⃣ 税理士法人制度(1人法人の設立要件緩和)
2️⃣ インボイス制度の経過措置の恒久化

日々の実務を通じて感じていることを、率直にまとめました。以下、その内容をご紹介します。


税理士法人の設立要件緩和について

現在、税理士法人を設立するためには、2名以上の税理士が社員となる必要があります。
しかし、これからは1人でも税理士法人を設立できるようにしようという改正が検討されています。

私は、この方向性に賛成です。

もし1人でも設立できるようになれば、次のようなメリットがあります。

  • 社会的信用度の向上
  • 税金や社会保険料の負担の最適化
  • 事業承継(後継者への引き継ぎ)の柔軟化

また、法人形態を選べることで、金融機関やお客様からの信頼も高まり、独立したい若い税理士にとっても大きな後押しになると思います。
税理士試験の受験者が年々減っている中、こうした制度改革によって「税理士という職業の魅力」を高めることにもつながるのではないでしょうか。


インボイス制度の経過措置の恒久化について

インボイス制度が始まってから2年が経過しましたが、現場では今もさまざまな課題があります。
特に、免税事業者やフリーランス、小規模事業者の方々にとっての負担は非常に大きいと感じています。

物価や仕入れコストが上がっても、それを販売価格に転嫁できない状況の中で、
経過措置が終わってしまうと「インボイスを発行できない事業者」との取引を敬遠されてしまうおそれもあります。

このような中で、現在設けられている

  • 「免税事業者等からの仕入れに係る経過措置」
  • 「2割特例」

は、とても有効な仕組みです。
(2割特例は、課税事業者になった小規模事業者が、納付税額を売上税額の2割とすることができる特例です。)

経理の負担を減らし、税務行政全体の効率化にもつながるため、
この制度は一時的な経過措置ではなく、恒久的な制度として続けていくべきだと考えています。


おわりに

今回のアンケートは、あくまで「私個人の意見」として回答させていただいたものですが、
現場の税理士として、実際の業務を通じて感じている課題を率直にお伝えしたつもりです。

制度改正にあたっては、実務の現場の声が反映され、
事業者の方々にとっても、税理士にとっても、より現実的で働きやすい制度になることを願っています。


※本記事の内容は、松浦玉枝税理士個人の見解であり、所属する税理士会等の公式見解を示すものではありません。

個人事業主の倒産防止共済と節税ポイント

個人事業主の皆さまにとって、所得税や住民税のほかに、毎年必ず課される個人事業税も負担になります。
iDeCoや小規模企業共済は所得税や住民税の節税に有効ですが、個人事業税には影響しません。
そこで注目されるのが、倒産防止共済(経営セーフティ共済)です。今回は、制度の仕組みと節税効果、実務上の注意点を整理してみました。


1. 倒産防止共済とは?

倒産防止共済は、中小企業や個人事業主向けの共済制度で、以下の特徴があります。

  • 掛金は毎月1万円から20万円まで設定可能
  • 掛金は全額必要経費として算入できるため、所得税・住民税・個人事業税の課税所得を減らすことができる
  • 解約時には掛金の元本が返戻される(運用益は付かない)
  • 掛金の10倍までの低利借入が可能で、資金繰りの保険的機能もある

2. 前納による節税効果のシミュレーション

ここでは仮定条件として、年間60万円を前納した場合の節税効果を試算します。

  • 前提条件
    • 掛金:60万円
    • 所得税率:10%・20%(複数パターン)
    • 住民税率:10%
    • 個人事業税率:5%

所得税10%の場合

  • 所得税:60万円 × 10% = 6万円
  • 住民税:60万円 × 10% = 6万円
  • 個人事業税:60万円 × 5% = 3万円
    合計節税額:15万円

所得税20%の場合

  • 所得税:60万円 × 20% = 12万円
  • 住民税:60万円 × 10% = 6万円
  • 個人事業税:60万円 × 5% = 3万円
    合計節税額:21万円

※あくまで仮定条件でのシミュレーションです。実際の税額は所得や控除、税率により異なります。


3. 出口戦略と注意点

倒産防止共済は掛金を経費として計上することで課税を繰り延べる仕組みです。
解約時には、解約手当金が事業所得として算入されますので、最終的な節税は「課税の先送り」にとどまります。

  • 長期保有のメリット
    収益性や流動性はないものの、赤字年や廃業時に解約すれば、節税効果を最大化できる
  • 流動性の制約
    掛金は原則として40か月以上継続しないと元本が全額戻らないため、資金は長期間拘束される

4. 実務上の考え方

  • 即効的に税金を減らしたい場合は、前納による節税が有効
  • 一方で、資金を運用して増やすことや流動性を重視する場合は、前納よりも通常掛金または投資に回す選択肢もある
  • 個人事業税まで含めた節税策としての位置づけを明確に理解することが重要

5. まとめ

倒産防止共済は、個人事業税まで節税できる数少ない制度ですが、長期的には「課税繰延」であること、運用益は付かないことを理解したうえで利用する必要があります。

  • すぐに税金を減らしたい場合 → 前納による即効節税
  • 流動性・資産形成を重視する場合 → 最低限の掛金にとどめ、残りは運用へ

個々の事業状況やライフプランに応じて、掛金の前納・通常支払・運用のバランスを検討することが望ましいでしょう。


💡 法人の場合の補足
法人が倒産防止共済に加入する場合も、解約時には解約手当金が収益として計上されますが、役員退職金などの費用と相殺することで課税所得の調整が可能です。そのため、法人の場合は個人事業主のような課税繰延のデメリットを抑えつつ、節税や資金繰り対策として有効に活用できるため、加入はおすすめです。

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松浦玉枝税理士事務所

■税理士サーチとは
税理士サーチは、日本最大級の税理士ネットワーク「TAX CONNECTION」が独自の審査基準を設け、全国の選りすぐられた優良税理士事務所のみが登録されたポータルサイトです。
エリア・業種・依頼内容から細かく検索できるため、あなたのニーズにぴったりな税理士がすぐに見つかります。

記事監修のお知らせ

このたび、住まいに関する総合情報サイト「お家のいろは」様にて公開された
マンション売却でかかる税金を徹底解説!シミュレーションや控除、税金がかからない場合も
という記事の監修を担当させていただきました。

マンションの売却を検討されている方にとって、譲渡所得の計算方法や特例の適用可否など、税金の知識は欠かせません。
本記事では、具体的なシミュレーション控除の活用方法、さらには税金が発生しないケースについても分かりやすく解説しております。

ぜひご一読いただき、皆さまの資産運用やライフプランにお役立てください。

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